茶道歳時記 炉開き
炉開きとは
かつての風習で、旧暦の十月(=亥の月、現在の十一月)の最初の亥の日に囲炉裏やこたつを準備する風習がありました。これは、亥の日が陰陽五行説でいう「水の日」であることから、火の用心の意味も込められています。茶道においても同様に、茶室の炉に火を入れる「炉開き」は亥の日とされていました。
こうして、11月はお点前が「炉」へと切り替わるため、皆で季節の切り替えを祝う茶会として「炉開き」を行います。炉開きでは、その年に摘んだお茶の封を切り使い始めることから、新たな年が始まるという意味で「茶人のお正月」とも言われています。
11月に入ると、無地の着物を着た方が歩いている姿をよく見かけるのではないでしょうか?恐らく炉開きに参加される方だと思います。
炉開きの流れ
お茶会のフルコースとも言える「茶事(ちゃじ)」の場合は、炭点前の拝見や懐石料理をいただきますが、下記のように少し簡略化したお茶会を行うケースが多いのではと思います。
※「茶事」については、別の機会にご紹介します。
①善哉をいただく
②亥の子餅をいただく
③濃茶
④薄茶
炉開きと善哉
亥の月・亥の日は、陰陽五行説でいう「陰」であることから、「陽」である小豆をいただき和合させる(調整する)ために善哉をいただくそうです。
またいただく際には、黒文字1本と赤く染められた杉箸1本を組み合わせて、一膳のお箸にしていただきます。
炉開きと亥の子餅
前述の亥の月・亥の日は、陰陽五行説の「水」にあたることから、イノシシを模した「亥の子餅」は火伏せのお菓子として茶会で用いられるようになりました。また、イノシシは子だくさんの象徴なので、子孫繁栄の意味からも縁起が良いとされています。
茶道のお点前と季節
茶道は、年間を11月〜4月までの冬、5月〜10月までの夏の大きく2つの季節に分けてお点前をします。冬はお客様により暖かくお過ごしいただけるように、お客様の近くに炉を設け釜を置きます。一方、夏は釜の熱さを避けるように、お客様から一番遠い場所に風炉(ふろ)を設け釜を置きます。
炉開きを迎えると、目の前に釜が置かれるため、見た目にも「冬」を感じられるようになり、シューシューという釜が煮える音もよりはっきりと聞こえ、これから深まる寒さに思いを馳せることになります。
終わりに
かなりかいつまんでの炉開きの紹介となりましたが、いかがでしょうか。茶道ではこうして、暦に合わせた支度をしたり、縁起をかついだりしながら暮らしに豊かさを求めているように思います。
お茶会をしないまでも、日々の暮らしに季節を意識した「食」や「設え」を取り入れることで、毎日がより豊かになるのではないでしょうか。一つひとつ、手間がかかることもありますが、簡単に便利な生活が手に入る一方で、”ひと手間かける贅沢”も素敵なことだなと思います。